空手道を愛する皆様(オリンピック正式種目に決まった時の様子)
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全世代に愛される空手道をもう一度楽しんでほしい 全日本空手道連盟の取組

東京オリンピック・パラリンピック大会でも高い注目を集めた空手道。しかし、空手道を習う子は、中学生に上がる段階で離れてしまう子が多数いるのだといいます。トップ選手から草の根までの競技を統括している連盟は、そこにどのように取り組んでいるのでしょうか。全日本空手道連盟指導普及課の岡﨑紀創さんに話を伺いました。

加盟団体情報

公益財団法人全日本空手道連盟

代表理事 笹川堯

1964年10月1日

東京都江東区辰巳1-1-20

「空手道―いつでも、だれでも、どこででも―」をテーマに、中長期的に「学校体育としての空手道の普及」を掲げ様々な施策を展開。近年、SNSでの発信にも力を入れており、空手道の普及に努めている。今後はだれでも気軽に参加できるような演武会なども実施予定。https://www.jkf.ne.jp/

公益財団法人全日本空手道連盟 指導普及課 岡﨑紀創

空手道の普及・発展に関して、連盟ではどのような取組を実施されていますか。

私たちは、NF(中央競技団体)のひとつですので、顧客は競技者や愛好者であり、競技の普及に向けた大会運営や選手の強化育成が主な役割です。また、空手道には段位制度があり、草の根の普及活動として、審査会の実施、段位の発行があります。

各取組のターゲット層を教えてください。空手道は、オリンピックでも大変盛り上がりました。まさに全世代で各取組が行われているのでしょうか。

空手道自体は、言ってしまえば小学生から90歳以上の方まで、幅広い世代でできるのが売りです。トップアスリートの競技力を高めることも目的のひとつですが、草の根の普及活動も重要です。その点で、東京オリンピックの開催は大きなことでした。大会期間中も、大会に向けた準備段階でも、選手がメディアに取り上げられるようになって注目度が上がり、一般の方にも少しずつ認知されるようになったのです。結果として、金銀銅1つずつのメダルが取れたので、多くの方に見ていただけました。 空手道の種目には、組手と形があります。組手のほうが、技が決まったときに盛り上がるので人気が出るかと思いきや、意外と形のほうが成績もよく、一般の方から「面白い」という反響が多かったので、我々の想像と違って興味深いと思いました。特に女性からの人気が高く、女性から見てもかっこいいという印象で認知され、ありがたい限りだなと思っています。

女性にも人気の高い空手道

オリンピックにおけるトップ選手たちの活躍によって、子どもたちへの影響も大きかったのではないでしょうか。

連盟への会員登録の分布図を見ると、圧倒的に小学生以下の割合が大きいのが現状です。6万6千人の会員のうち、4割が12歳以下。登録者数は、そこから中高でガクンと減って、20代からは横ばいが続いていきます。
少子化もひとつ要因としてありますが、中学に上がると部活に入らないといけないので、道場に通わなくなってしまいます。また、塾に通い始めて、スポーツに限らず習い事を辞めてしまうケースも多いようです。子どもたちにいかに競技を続けてもらうかは、今後も大きな課題です。

今回のキーワードは「#久しぶり系」です。オリンピックを契機に、まさに一度競技を離れた人に、もう一度空手道を始めてもらうために、働きかけていることはありますか。

現在着手しているのが、「空手Family演武会」という、家族で参加できるような、敷居を下げた形の演武会の開催です。コロナ禍を逆手にとり、離れた場所でも参加できるようオンライン上で集まって、ひとつの思い出作りをしてもらおうと、12月の開催を試みています。
空手道には「団体形」といって、3人で一緒に演武して、アーティスティックスイミングのように同調性を競う種目があります。これを、あえて順位をつけず、道場ではなく自宅でもいい、道着ではなく普段着でもいいなどと、条件を緩くして、誰でも参加できるようにしています。経験者が一人でもいれば、そこから周りの方へ声をかけて参加してもらえれば嬉しいですし、未経験者も大歓迎です。 当初は親子での参加を想定していましたが、以前の部活のチームメート、昔通っていた道場の仲間たちなど、いろんなかたちの「Family」が、久しぶりに集まって楽しめるような場になればいいなと思っています。オリンピック代表選手にも参加してもらって、選手の普段の一面が見られるような、アットホームな雰囲気にしたいです。
また、広く一般の方にも拡散できるという点で、オリンピック期間はSNSの発信に注力していました。ねらいは、まさに小学生のときに空手道をやっていて、いまは辞めてしまっている中高生に、空手道を思い出してもらうこと。例えば、段位によって変わっていく帯の色についてTikTokで紹介すると、「自分は茶だった」「うちのところには紫があった」と、コメントが1000件以上寄せられました。 オリンピックの影響で、「昔空手道をやっていた」と公表する著名人が増えたと実感しています。広報チームでリスト化したら、100人ほどいました。これまで未開拓だったSNSですが、オリンピックを機に、連盟内でプロジェクトチームを組んで力を入れるようになりました。

今後これまで以上に、空手道などのスポーツを生活の一部として取り入れることができるようになったら、どのようなメリットや相乗効果があると思いますか。

空手道に限らず、幼少期からいろいろなスポーツを経験することが生涯スポーツに寄与するといわれているので、空手道という競技を知ってもらうことで、単純に選択肢がひとつ増えればいいなというのが我々の願いです。環境の変化や地域特性によって、場所がない、人がいない、道具がないといった理由で柔道や剣道ができない状況のなかに、別の選択肢として、空手道ができる環境を整えることが大事だと思っています。
東日本大震災で被害にあったある学校は、1階が浸水し、剣道場も柔道場も流されてしまいました。そのとき、たまたま先生が「空手道を授業でできるんじゃないか」と言って、やってみたことがあったそうです。体育祭で空手道の演武を披露して、地域の人が見に来て、それが地域の人にとっても印象に残っているという話も聞きました。空手道が、こんなふうに世の中の役に立つことがあるのだと、感動したのを覚えています。
選択肢のひとつとして空手道があり、それができる体制が全国に根付いていることが大切です。地域の道場が受け皿になり、寺子屋のように、地域のコミュニティのひとつになる可能性も秘めています。

最後に、将来的な活動の拡大や今後の展望について、お聞かせください。

最近注力しているのは、学校教育としての空手道の普及です。中高の授業で、何かしら武道をしたことがある人は多いと思いますが、逆に言えば、体育の授業でしか経験のない場合がほとんどでしょう。加えて、多くが柔道か剣道なので、そこに空手道をどう取り入れてもらうかが現在の課題の一つです。
平成24年に学習指導要領が改定され、「武道必修化」になりました。しかし、コロナ禍で接触が制限され、困っている先生が多いと聞くので、接触も道具もいらない空手道をアピールできるのではないかと、連盟としてそこに力を入れていこうとしているのです。 また、今後は、社会貢献活動にどれだけ空手道が寄与できるのか。Family演武会もその一環です。SDGsについても、環境や教育、ジェンダーなど、空手道にかかわる延長線上にあるものは考えています。
環境の面は、大会運営にあたって、リサイクルに力を入れ、リユースできるものに変えていこうと話しています。ジェンダーでいうと、空手道はもともと男女平等でできるものです。通常は男女で分かれる団体形の演武も、3人のなかの一人に男子や女子が入るような在り方を模索していこうと思っています。
教育で力を入れているのは、特別支援教育です。当連盟では、知的障害、視覚障害、身体障害の大会運営をしていますが、NFでは珍しいケースです。空手道では、すでに普通学級と特別学級の子が一緒に取り組んでいるところもあります。こうした取組をうまく広報していくことで、今後空手道の新しい価値を伝えていきたいと考えています。

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