オフラインでの運動指導の様子
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すべての子どもたちがスポーツ好きになるように 株式会社アシックスの取組

日本の大手総合スポーツ用品メーカーの一つであるアシックス。同社では、未就学児を対象に、運動能力測定やうんどうあそび教室を展開しています。具体的にどのような活動で、どういった成果が出ているものなのでしょうか。同社主催の「子供が運動を好きになる!身体能力の定量的な測定とオン/オフラインのパーソナライズ運動プログラム処方」をリポートしながら、「Team Sport in Life」5つのテーマの1つである「#親子系」を紹介します。

加盟団体情報

株式会社アシックス

代表取締役社長COO 廣田 康人

昭和24年9月1日

兵庫県神戸市中央区港島中町7丁目1番1

「アスレチックスポーツ」「スポーツライフスタイル」「健康快適」の3つの事業領域でビジネスを展開。主に、各種スポーツ用品等の製造および販売を行っている。近年では、スポーツで培った知的技術を活かしながら健康・快適をキーワードとした様々な分野にも事業を広げており、2021年には、アシックス独自の身体能力測定やうんどうあそび指導を通じて子供が運動を好きになるためのサポートを実施している。

測定と動画配信を連携させたプログラム

子どもたちの運動時間を増やしたい。そんな思いで、大手総合スポーツ用品メーカーのアシックスが、未就学児を対象にうんどうあそびを提供する取組を行っています。
小さい頃は、どの子も体を動かすことは好きなはずです。しかし、学校の体育の授業を含め、周りと比べることで「苦手意識」が芽生えてしまうなど、さまざまな要因で運動から遠ざかってしまう子も少なくありません。生涯にわたって運動を続けるかどうかは、幼児期の経験や環境によるところが大きいのです。そのため、小さい頃からいろいろな運動を経験して好きになってもらおうと、アシックスが取り組むのが「子供が運動を好きになる!身体能力の定量的な測定とオン/オフラインのパーソナライズ運動プログラム処方」というプログラムです。
この取組は、下記3つのパートから成り立っています。

1.キッズスポーツチャレンジ™+足形計測
2.オンラインの運動動画の配信
3.オフラインの運動指導

キッズスポーツチャレンジ+足形計測では、走力・跳躍力・調整力・バランス力・投力・キック力と、合計6 項目に関する運動能力をテストしました。運動処方の前に、まずは現状を知ることが大切だからです。ただし周りの子と比べるのではなく、これまでに蓄積した約1万5千人のデータから、1人1人の月例の全国平均値と比較するという工夫をしています。これによって、どれくらいの身体能力があるのか、何が得意で何が苦手なのかを正確に把握した上で、その子に合ったうんどうあそびを提案します。

キッズスポーツチャレンジ™ バランス力の計測

加えて、足形の計測も実施。成長期の子どもたちは、自分の足に合っていない靴を履いていることが多いと、同社の大野さんは言います。
「すぐに大きくなるからと、わざと大きめのものを履いていたり、本当はもうきついのに、親が知らないうちに小さいものを履いていたりします。しかし、靴は本当に重要な要素です。我々が足形を測定することで、適切なシューズ選びを促します」

足形計測の様子

次に、計測した運動能力をもとに、個々に合ったうんどうあそびを提案するのが、2の「オンラインの運動動画の配信」です。保護者に協力してもらい、LINEの友達登録から、その子に合った運動動画を配信します。得意なものを伸ばし、苦手なものを補いながら、運動時間を増やしてもらうのが目的です。

うんどうあそび動画 「ウサギかカメか」

うんどうあそびを実践する「オフラインの運動指導」

では、3「オフラインの運動指導」とは、どのようなものでしょうか。現場で子どもたちを指導する小坂さんにお話を伺いました。
横浜南プリスクールに通う2~6歳児の園児たち30人を対象に、毎週1回小坂さんが足を運んで、30分間のうんどうあそび教室を10週間実施。子どもたちに運動好きになってもらい、ひいては一生涯運動を続ける子になって欲しいとの願いを込めています。
「重視するポイントは、フィジカルリテラシーの向上。フィジカルリテラシーは、スポーツに一生涯親しむために必要な力です。例えば、自分からやろうとするモチベーションや、自己効力感。そして、走る、跳ぶ、投げるなどのスキルをもっていること。さらに、どうしたら速く走れるか、どうしたら遠くまで投げられるかという知識や理解力。それらを総じて我々はフィジカルリテラシーと捉え、この力を高めていくことを目指しています」(小坂さん)
例えば、小坂さんが考案した遊びのひとつが「フルーツサラダ」。子どもたちに「みかん」「バナナ」などのグループに分かれてもらい、自分のグループ名を先生に言われたら走ります。また、先生が「フルーツサラダ!」と言ったら全員が走るという、鬼ごっこを応用した遊びです。この遊びには、単に走る能力のほかに、全力疾走からストップする、切り返すといった多様な動きが含まれています。

走力を養う「フルーツサラダ」 うんどうあそびの様子

小坂さんが、うんどうあそびを考案したり運動指導のプログラムに取り入れたりするとき、どのようなことに配慮しているのでしょうか。
「たとえいいトレーニング方法があっても、子どもたちに警戒されていては始まりません。まずは、僕が子どもたちに信頼してもらう関係性を築けるようにしたいと思っています。次に、ドリルが難しすぎる・簡単すぎると興味がなくなるので、今の能力よりちょっと難しいものを選ぶこと。そのために、今の子どもたちの状況を知ることが重要になりますので、最初の測定は非常に有効であるといえます。子どもたちが生涯を通じてスポーツを大好きになってくれるように、テクニカルになりすぎず、いいトレーニングでも嫌いになってしまうものは取り入れないように心がけています」
また、ウオーミングアップで行う「これできる?」のコーナーは、片足で立つ、走って止まるなど、いろんな動きを取り入れることで、子どもたちがどんなことを、どれくらいできるのかが見られるため、効果的だといいます。

これできるかな?「つま先立ち」に挑戦している様子

幼少期は、外遊びを大切にしてあげて

この運動教室の効果を、小坂さんは肌で感じています。
「園の先生たちや保護者からは、『楽しそうにしている』『普段から運動するようになった』という声をいただいています。また、親子で運動に関するコミュニケーションが生まれたという声も嬉しいですね」 また、大野さんは、この取組の前後で、子どもたちの身体能力の変化を具体的にまとめました。アシックスでは、年齢ではなく月齢基準で評価しており、立ち幅跳びが5か月、ジャイアントフット走10.1か月、ボール投げ10.6か月相当の向上が見られました。

運動教室の効果検証 身体能力の変化に関するグラフ

「また、アンケート調査においては、運動が『好き』『とても好き』と答えた子は、90.9%から95.5%へ上昇。『嫌い』と答えていた子が一人だけいたのですが、その子が『とても好き』に変わってくれたのが、何より嬉しかったですね」(大野さん)
一連の取組を通して、お二人が課題に感じたのは、動画配信の部分です。再生回数が思うほど伸びなかった理由を、大野さんは次のように分析します。
「隙間時間に見て、家で少しでも体を動かして欲しいと思っていましたが、まずお子さんがスマートフォンをじっと見ていられないという点がありました。テレビで大きく見せる、キャラクターが出てくるなどの工夫が必要だったなと思います」
また、運動の継続に関しては、保護者の協力を始め、家庭環境が大きく影響すると、小坂さんは話します。 「保護者に運動習慣があるか、運動好きかどうかは、そのまま子どもにリンクします。まずは、保護者に運動の大切さを理解してもらうこと。今回子どもたちの運動能力が上がったのは、30分の運動教室の効果だけではないと考えます。例えば、運動指導で走り方を教わった子どもが、後日親に公園で走りたいと言ったり、投げ方を教わったから親とキャッチボールがしたい、ボールを買ってほしいとお願いしたり、普段の生活の中に変化が現れることで、自ずと子供が運動する習慣が芽生えたからだと思っています。運動の必要性を、親子共に啓発することが重要です」

投力を養う「ボール投げ」の様子

そして最後に、お二人から親子でスポーツを楽しみたい人たちへのメッセージをいただきました。大野さんは、自身が幼少期から多くのスポーツに触れてきた経験をもとに、次のように話します。
「お子さんが、運動は楽しいと一生涯思えるように、保護者の皆さんには、小さい頃からいろんな経験をさせてあげて欲しい。そのために、こういったうんどうあそびを取り入れたり、普段から一緒に遊んであげたりしていただければと思います」
また、小坂さんは、幼少期からの運動の専門化に対して、警鐘を鳴らします。
「子どもにとっての外遊びは、大人の気晴らしとは違って、それ自体が学習です。フィジカルリテラシーや社会性、ルールを学び、モチベーションも育っていくので、まずは自由遊びをたくさんやらせてください。子どもを将来スポーツ選手にさせたい人こそ、専門的なトレーニングを早いうちからさせるのではなく、10歳くらいまでは鬼ごっこや川遊びをたくさんさせて欲しい。フィギュアスケートや体操などの回転系の早期に専門的なトレーニングによるスキルの習得が必要といわれているスポーツ以外は、成長スパート(最大発育速度:Peak Height Velocity - PHV)の後に本格的に始めても大丈夫です。運動の基礎ができないのに専門的な運動だけやらせても上手にはならないので、まずはそこを理解していただければと思います」 幼少期から、体を動かす楽しさを知る。普段から親子で一緒に遊ぶことによって、子どもたちの未来の選択肢を増やしてあげることができるはずです。

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