お揃いのポニーテールをしたグランチアの皆さん
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「私なんか」が「まさか私が」に。自己肯定感が上がる株式会社MIKI・ファニットの取組

スポーツとは、年齢に関係なく誰でも楽しめるもの。しかし、年齢を重ねるごとに、体を動かすことから遠ざかってしまってはいないでしょうか。今回は、高齢者から子供まで、幅広い年齢層に向けたチアダンス教室を運営する、株式会社MIKI・ファニット代表取締役社長の太刀山美樹さんに、楽しかった頃の自分に一気に戻れる、50代からのチアダンス「グランチア」について話を伺いました。

加盟団体情報

株式会社 MIKI・ファニット

代表取締役 太刀山 美樹

2006年7月7日

福岡市西区内浜1丁目7 ウエストコート姪浜 西部スポーツガーデン2F

子どもが育つ場を提供する「スクール事業」、親・先生を育てる「研修コンサル事業」、子どもが育つ環境を育む「グランハブ(世代交流)事業」の3つの事業を展開。
0歳から80歳以上までの幅広い年齢の方が、楽しく自信をもって活動できるよう、ダンスを中心としたレッスンを行っている。

貴社では、ダンスを中心とした運動プログラムを実施されていますが、数ある運動のなかで「ダンス」に着目された理由はありますか。

私は、もともと運動が好きで体育大学に進みました。しかし、体育のエリートと一緒になると、全然ついていけなかったんです。周りと比べて「自分はできない」という意識が芽生えてしまいました。こういう環境が運動嫌いを作るんだと思い、反面教師で指導者を目指しました。ある日、部活でのケガのリハビリ代わりに、エアロビックダンスに参加してみました。そこで改めて、体を動かすのは楽しいなと思ったんです。それが、ダンスとの出合いでした。
大学卒業後に就職したスポーツクラブは、交通事故が原因のケガで退職しましたが、結婚・出産を経て、再び子供と一緒に運動するようになりました。その頃、高齢者施設のボランティアもしていたので、シニアと子供への運動指導を考えるようになったんです。子供と大人が、お互いを感じ合いながら相乗効果が生まれるのは何だろうと模索する中、高齢者のチアダンスに出合いました。キラキラしたポンポンを見ると、いくつになっても気分が上がるんですね。当時、チアダンスに特化したスタジオはなかったので、華やかに人を応援するというのに惹かれて、高齢者と子供たちに向けてやっていこうと決めました。

貴社の取組について教えてください。

起業して15年。当初から、身の回りの子供と高齢者の指導を2本立てで行ってきました。そこからサークル活動や、NHKの体操コーナーを担当するなど、幅広く活動してきたと自負しています。これまで、アフリカの支援イベントや自治体・民間企業との連携など、一見ダンスとは関係ないように思われる畑違いの分野とコラボすることで、間口を広げてきました。また、私自身が九州大学大学院で研究も行っています。それによって、チアダンスが心身に与える好影響についてのエビデンスをしっかりととり、信用を得ることにもつながってきたと思います。
はじめは、子供向けのアプローチを検討していましたが、その背景には親御さんをはじめ多くの大人がいます。そこで、周りの大人にも元気になってもらおうということで、50歳以上の「グランチア」のクラスを始めたのです。
シニアクラスを始めて印象的だったのは、「久しぶりにこんなに笑ったよ」と言う高齢者の方の笑顔です。どうしても近年、一人暮らしなどで単身の方が多く、一人の時間をどう過ごすかという孤独との戦いが課題となっています。同世代から孫の世代までみんなを応援することで、自分も楽しむ。それが喜びやモチベーションになっているので、好循環が生まれているなと実感しています。

グランチア教室の様子

今回のキーワードは「#久しぶり系」です。高齢者の方々に、まさに久しぶりに体を動かしてもらうために、どのように働きかけていますか。

マスコミに働きかけてたくさん取材を受け、「はじめの一歩で人生が変わった」というストーリーを書いてもらいました。加えて、先述の通り、畑違いのいろんな方が集まるイベントに出て、普及活動を続けてきました。すると、「昔チアをやってみたかったけれど、自分なんか無理だと思っていた」「思い切って来た」という人がいるんですね。若い頃、アイドルやバックダンサーに憧れていた人たちが、意を決して来てくださるわけです。そして、やってみると、女子高生みたいな気持ちになる。最初は嫌がっていたミニスカートも、やっぱり履きたいって、キャーキャー言いながら楽しんでいらっしゃるんです。
また、高いレベルで挑戦したい方は全国大会を目指しますし、激しい運動を控えたい方は拍手で盛り上げるだけでもいい。ゴールの形は、人によって様々ですから、一人一人に合った形でサポートしています。

これまでに得られた成果や、実際にレッスンを受けている方からのお声はいかがでしょうか。

研究の中で、昨今コロナウイルスによって疲弊している医療福祉従事者に向けてレッスンをしたところ、脳疲労の減少が見られました。その延長で、今後はよりユーザー目線に立って、どうしたら運動を運動と思わず自発的にできるようになるかということも模索していこうと思っています。
グランチアの皆さんは、始めるとどんどんきれいになっていきます。自分が呼ばれたい名前で呼び合うので、年齢差も関係なく「○○ちゃん」などと呼び合って、皆さん楽しそうです。強制されてする運動ではなく、本人が「気がついたら動いていた」という状況にしたいと思っています。楽しそうに動いている人を見て笑顔になる。それだけでもいいんです。子供の頃、何度かやっているうちに「でんぐり返し」や「逆上がり」がいつの間にかできるようになったといった経験のある方も多いと思いますが、幼少期にそういう経験をすると、自信につながります。それは、年代を越えても同じです。シニアでも「どうせ自分なんか」という自信のなさを変えたい。人を応援することで自分も元気になるし、やったことのないことにチャレンジすることで、「自分もできるんだ!」という体験をたくさんして欲しいと思っています。

グランチアメンバーの皆さん

将来的な活動の拡大や今後の展望について、お聞かせください。

昨年は、コロナで完全にシャットアウトされてしまい、宣言が明けても感染を心配する人が多かったため、全体として参加者が減ったのは事実です。しかし、戻ってきてくれた人の中には、引きこもる日が多かったことでうつのような症状が出ている人もいて、やはり人と会って何気なく笑うことが大事だなと痛感しました。日頃からLINEのグループで練習映像を流していて、デバイスも使っていたため、宣言中はオンラインレッスンにも挑戦しました。ZOOMの使い方がわからない方もいて苦労もありましたが、今後は、対面とオンラインとの両輪でやっていこうと思っています。
コロナ禍で苦労はいろいろとありましたが、一方で新たな発見もありました。例えば、LINEグループチャットで「マイケルジャクソンになりきってみよう」と働きかけたら、ネットでマイケルジャクソンを検索して、メンバー同士でコミュニケーションが生まれました。デジタルスキルを学ぶクラスも作ったので、動画編集やインスタグラムなどのSNS上での自己表現をされている方もいます。すると、若い人たちとの交流が生まれ、それが新たなモチベーションになるんですね。若い世代に世話をしてもらうのではなく、こちらがむしろ若者を応援してやる!という気概です。すると、「おばあちゃんかっこいい!」と、子供やお孫さんが応援してくれます。こういう人を増やしていくことで、自己完結ではなく、取り組んでいることが自然に周囲に波及していく、そんな好影響を生んでいきたいですね。

チアダンスレッスンの様子

これから#久しぶり にスポーツをしてみようという方に一言お願いします。

運動やスポーツは、一人でも楽しいですが、みんなでやるのもいいものです。楽しみ方は人それぞれですが、一度やってみると、昔やりたかったことや子供の頃の思いなどを思い出し、久しぶりに昔に戻ることができます。それを、ぜひ多くの方に一度体験して欲しいです。「私なんか」が「まさか私が」に変わる瞬間。自己肯定感が上がるその時を、私はうまく応援していきたいと思っています。
もう年だから…と諦めるのではなく、「今の私なら、もっとできる!」という気持ちになり、新たなチャレンジへと繋がっていく人もいます。その様子は、子供たちにも伝えたい。オンラインレッスンでは、娘や孫と3世代で参加したり、介護をしている50代と85歳が一緒に参加したりしていました。世代を越えて応援し合えるグランチアを、大学や医療福祉とも連携して、今後も目指していきます。
グランチアは、一人一人が主役です。腰が痛い、ひざが悪いなど、誰しもに事情があるのは当たり前なので、みんなでカバーし合って全員が主人公になれます。どんな人でも楽しめて、どんな人でも誰かの役に立っているんだということを、チアダンスを通して感じてもらえたら何よりです。

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