SDGsとスポーツを掛け合わせた異色イベント
宮城県を拠点とする東日本放送は、去る10~11月にかけて、地域の人々を対象としたイベント「スポーツ×SDGs スポーツの力で明日を変える!」を開催しました。SDGsに関しては、これまでも「グリーンキャンペーン」というエコ活動などを行ってきたという同社。9月には、再開発の進んでいる「あすと長町」に新社屋を構えました。そこで、地域のコミュニティづくりや課題解決に取り組みたいと考えたそうです。
では、これまで同社が力を入れてきたSDGsに、スポーツを掛け合わせたのはなぜでしょうか。東日本放送の花里直さんは次のように語ります。
「新社屋に移転して間もなく、弊社がSDGs宣言をしたことと、国連の『SDGメディア・コンパクト』(世界中の報道機関とエンターテインメント企業に対し、その資源と創造的才能をSDGs達成のために活用するよう促すことを目的として設立された枠組)をきっかけに、体を動かすことの大切さを考えるようになったからです。地域の皆さんに、体を動かしながらSDGsについて考える機会を作れないかと模索し、実践したのが今回のイベントでした」
新社屋には、体を動かすのにもってこいのホールを完備している他、目の前には大きな公園広場があります。さらには、同社がネーミングライツを持つ「ぐりりの森」も活用して、今回のイベントが行われました。
実施されたのは、
1. 親子編「スポーツ×SDGsアイデアソン」
2. シニア編「転ばぬ先の杖!まさかに備えるからだづくり講座」
3. 多世代交流編「SDGsウォークイベント」
と、対象者を分けた3種類。具体的にどんなイベントだったのでしょうか。それぞれ紹介します。
写真)東日本放送本社 イベント時の様子
親子編「スポーツ×SDGsアイデアソン」
まずは、親子を対象とし、2日間にわたって開催された「スポーツ×SDGsアイデアソン」。エコロジーオンラインというSDGsの専門家に監修してもらいました。
1日目は、参加者に対してSDGsとは何かを説明。それらに紐づくスポーツを考えてみようと、グループワークをしました。宮城県伝統の「すずめ踊り」をテーマにしてアイデアを募ったところ、踊りながらリレーがしたいと、子どもたちから意見が出てきました。
そこで、2日目にはそのアイデアをみんなで具現化。すずめ踊りで使う扇子に、風船を載せてリレーをすることになりました。走る人は、最後にカラフルなSDGsの札を取ってきます。札を持ち帰った後には、その項目の説明がなされ、SDGsについての学びにもなりました。
こうして、新社屋のホールに集まった延べ75名の親子みんなで新しいスポーツを考え、楽しく体を動かすことができました。参加した子どもたちが楽しそうだったことはもちろん、保護者にとってもよい学びになったようです。
ただ、主催者として運営に関わった前田さつきさんは、今後の課題も見えたと言います。
「SDGsというテーマ的には、小中学生がメインターゲットではありましたが、“親子”と打ったことで、参加してくださった多くのお子さんが小学生未満の方たちでした。未就学児にとってはSDGsのテーマが難しかったと思うので、集客における告知の仕方をもっと工夫しないといけないなと思いました」
写真)カラフルなSDGsの札を取る様子
シニア編「転ばぬ先の杖!まさかに備えるからだづくり講座」
一方、こちらは、65歳以上の高齢者を対象としたイベントです。いざというときに備えて、フレイル予防や運動不足解消を目的に、みんなで体を動かそうと地域に声をかけました。
カラオケで有名な第一興商と一緒に、カラオケの音楽に合わせて、手を動かしたりダンスをしたりしました。椅子に座ったままできるものや、誰でも簡単にできる動きがたくさんあります。同様の内容を3回行ったところ、各回約40名の高齢者たちが集まりました。
こうした運動・スポーツを普段からすることで、いざというときに備えられますよ、と呼びかけたので、アンケートでは「実際に家でもやってみたい」と答える人が多く見られました。
担当の前田さんは、「すべての人に健康と福祉をというSDGsの切り口で、このイベントを開催しました。やってみると、近くの公園からふらっと来てくれる当日参加の人もいて、嬉しかったです。公園の少し先には市立病院があるので、この場所を定期的な通院の際に気軽に寄って運動・スポーツができるスペースにできればと思っています」と、この先の可能性も感じたそうです。
写真)音楽に合わせたダンスの様子
多世代交流編「SDGsウォークイベント」
最後に紹介するのは、1周約1.5kmを周遊できる宮城県利府町にある「ぐりりの森」で行われたウォーキングイベント。森の中を歩くことで、体を動かしながら自然を守ったり育んだりすることの大切さを学ぶことが目的です。
写真)ぐりりの森 案内図
こちらは、午前の部・午後の部の2回開催で、未就学児から高齢者までの幅広い世代が集まり、約50名が参加しました。
多世代交流と銘打ち、ほかの家族とも交流してもらうため、あえて家族を混合させてグループ分けを行いました。自然に関する専門家のインストラクターが各グループにつき、歩きながら自然についての豆知識を教えてくれます。
インストラクターは、生えている植物の説明はもちろん、見慣れない3種類ほどのどんぐりを持ってきて見せてくれたりもしました。これには大人の反応も上々。また、細かい枝を切ることが、陽の光を十分に行きわたらせ、木の成長を助けることを説明し、子どもたちが実際に枝切りの体験をする場面もありました。単に目に見える自然を堪能するだけでなく、森の管理の仕方を学ぶことにもつながったのです。
さらには、一昨年の台風19号で被害に遭った倒木を目にし、防災の話にも発展。同イベントを担当した吉川優姫さんは、「森の細かい手入れが、人の命を助けたり奪ったりすることがあるというのを、歩きながら学ぶことができました。体を動かし、体験してもらったほうが、子どもにはよりわかりやすいと思います。まずは、こうしてSDGsに触れてもらうことが大切でした」と話していました。
イベント後、「運動不足解消になった」「普段使わない筋肉を使った」と話す大人や、「枝切りや木を植える体験が面白かった」と話す子どもなど、様々な反響がありました。
写真)自然についての豆知識を学ぶ様子
写真)枝切り体験の様子
スポーツのハードルを下げることの重要性
これらのイベントを通して、スポーツはより「誰でもできるものであること」を打ち出すのが重要であると、各担当者は実感したといいます。
「シニア編では、普段まったく運動しない人もいらっしゃいました。でも、東日本放送新社屋のイベントと聞いて、スポーツ自体に興味がなくても足を運んでいただき、『やってみたら意外とスポーツって楽しい!』と感じてもらえたのが、すごく良かったなと思います。また、告知に“SDGs”の文字が入ると、難しく感じてしまう人もいるので、誰でも楽しく参加できるものであることを、今後は打ち出したいです」(前田さん)
「スポーツと聞くと、サッカーやランニングなど、ハードな運動を思い浮かべる人が大多数だと思います。しかし、実は森の管理や枝切りも広義のスポーツですし、「すずめ踊り」も、走ってSDGsの札を取りに行くのもスポーツだといえます。スポーツという言葉の敷居を低くするのが、まさにネオスポーツの役割。通勤だって家事だってスポーツかもしれないよと、見方を変えてスポーツを捉えてもらえたらいいなと思います」(吉川さん)
新社屋には107段の長い階段ができ、そこを毎日利用することで体重が落ちた人もいるそうです。社員が日々、実感をもって日常の運動の重要性を発信し続ける東日本放送。ここが新たな地域交流の場でありスポーツをする場となっていくことを、社員の皆さんも期待しています。