貴社では、スポーツの発展に関する取組として、どのようなことを実施されていますか。
私は、超人スポーツ協会の理事を5年ほど務めています。超人スポーツとは、誰でも気軽に参加できる「ゆるスポーツ」と比較されることが多いのですが、新しいテクノロジーを使ってスポーツをするものです。人間の身体能力を超える力を身につけて「人を超える」、あるいは、年齢や障害などの身体差により生じる「人と人のバリアを超える」、そんな“超人”が生み出すスポーツというのをコンセプトにしていて、現在31の認定競技があります。新しい地方創生を含めた、誰もが参加できるスポーツを生み出すことが目的です。
さらに、柔道の野村忠宏さんが主宰する「野村道場」では、柔道のすごさを子どもたちに伝えるために、プロジェクションマッピングを駆使したイベントを行ったり、マイナースポーツの一つであるスカッシュを盛り上げるために、デジタルで拡張したコンテンツを作ったりなど、様々なところでテクノロジーを使ったスポーツを展開しています。
スポーツ×テクノロジーに着目されたきっかけはありますか。
もともとわが社は広告領域で、デジタルの体験を広告展開に使ってきました。一方、スポーツの世界に目を向けようとしたときに、一般の人の中では“スポーツって大変そう”というイメージが先行してしまうので、それがとても残念だなと思ったんですね。本来なら、スポーツの競技性や奥深さを抽出して伝えたい。けれど、やっぱり人って体験してみないとわからないこともたくさんあります。そこで、スポーツを手軽にできない人、スポーツの面白さを伝えたい人のために、スポーツを疑似体験できるコミュニケーションツールとして、テクノロジーを使うことを思いついたのです。広告業界で培ってきたデジタル技術を、ありのままのスポーツを伝えるために使っています。
その中でも、特にパラスポーツに目を向けたのはなぜですか。
僕自身が車いすだからです。18歳のときに遭ったバイク事故で、車いすの生活になりました。治療やリハビリを終えて大学に戻ると、必修として体育の単位を取る必要がありました。すると、「澤邊さんができるスポーツを見つけてきて、それに毎週通っている証明ができたら単位をあげるよ」と、先生に言われたんです。そのとき、たまたまボッチャを勧めている先生がいてボッチャに出合い、そこへ半年通って無事に単位を取りました。でも、単位のためだけでなく、やってみてすごく面白かったんですよね。その後、関わることはほとんどなかったのですが、東京オリパラ招致決定を受け、パラスポーツ関連の仕事が入ってくるようになりました。自治体や企業が主催する体験会なども増えましたが、皆さん体験すると「カッコいい」「面白い」よりも先に、やはり「大変さ」が来てしまいます。こんなに大変な思いをして車いすに乗っているんだ、と言われることのほうが多かったんです。もちろん、それも伝えるべきことのひとつですが、私たちはその先にあるものを見ています。その表現に適しているのは何だろうと考えるようになりました。そこで、パラスポーツにテクノロジーをかけ合わせることで、大変さよりももっと、楽しさを伝えたいなと思うようになったのです。
貴社では、ボッチャと車いすレースのコンテンツをリリースされています。具体的な内容と、魅力の発信方法について教えてください。
400mの車いすレースをVRで疑似体験できる「CYBER WHEEL(サイバーウィル)」と、ルールはそのままに、センシングや映像技術で体験を拡張した「CYBER BOCCIA(サイバーボッチャ)」というものを開発しました。どちらも10台くらいずつ作っています。競技の選定理由としては、一人でも体験できることと、わかりやすいこと。車いすバスケットボールやウィルチェアーラグビーのようなチーム戦は、一人では体験しづらく、表現の仕方が難しいのです。車いすレースは、とにかくわかりやすいのが魅力でした。ボッチャは、僕にとって身近だったからです。
現在は、このCYBER WHEELとCYBER BOCCIA、それがより進化したCYBER WHEEL X、CYBER BOCCIA Sのレンタルと販売を行っています。パラスポーツの体験会や、社内交流における貸出もあります。特に、東京パラリンピックをきっかけに、大会が終わった今も、レンタルの要望を多くいただいています。CYBER BOCCIAは、大阪のVS PARKららぽーとEXPOCITY店に、CYBER WHEEL Xはスカイツリーがある東京ソラマチと、横須賀にあるNTTドコモの研究所にも常設されています。また2022年4月には、CYBER WHEEL XとCYBER BOCCIA Sが、東京タワーにオープン予定のesportsパーク「RED°TOKYO TOWER」に設置される予定です。
CYBER WHEELとCYBER BOCCIAについて、課題や将来の展望はありますか。
今後、カフェバーや老人ホームにも、レクリエーション用として導入してほしいので、支援者を探しています。当面の課題は、製造コストが高いことです。特に、フレームが特注なので高価になってしまうのですが、例えばプラスチック製などにして安く抑え、量産できれば、価格を下げることができるのかなと思っています。
余談ですが、業界全体として、活動資金は課題のひとつです。東京パラリンピック前は、協賛金や国からの助成金がもらえていましたが、その額が減ると、選手たちが持ち出さなくてはならなくなります。そこで、クラウドファンディングやブロックチェーンにも取り組まないといけないし、体験だけではなく、競技団体を支えるほうにもテクノロジーを導入するなど、活用できるものはしていきたいと考えています。
一般的にスポーツというと、五体満足で、ある程度トレーニングもできて、身体的に恵まれた人のものというイメージが大きいと思います。しかし、パラスポーツは違います。ボッチャは、3~80歳くらいまで幅広くプレイすることができ、筋力も要りません。超人スポーツも、モーター付きの乗り物やVR防具など、いろんなギアを使って、みんな等しく体験できるものです。今回の東京オリンピックを見ても、スケートボードやサーフィンのような、道具を使う新しいスポーツが特に盛り上がりました。これらはパラスポーツに似ており、垣根がとっぱらわれていて、ある意味スポーツの“進化”を見た気がしました。誰もが体験できるスポーツを考えることで、あらゆる人にフィードバックされるような好循環が生まれます。CYBER WHEELとCYBER BOCCIAについても、そういったところに寄与していけるきっかけになるといいなと思っています。
スポーツ×テクノロジーを活用した、新たな展開などは検討していますか。
スポーツだけにとどまらないという意味で、我々は身体拡張の先にあるものを見ています。例えば、スイスのチューリッヒ工科大学で行われている「サイバスロン」というものがあります。これは、ロボット工学などの先端技術を応用した義肢などを用いて、障害者が日常生活に必要な動作に挑む、国際競技大会を軸にした取組です。障害者やお年寄りが、ハイパー義手やパワースーツなどの機械のサポートを使って、スポーツができるようになるのです。すると、健康寿命を延ばすことや、個々のQOL向上にもつながります。スポーツを、ひいては日常生活を、身体性だけにとらわれることなく、多くの人のものにできる。我々は、ここに技術的なサポートをしていきたいと考えています。
ありがとうございます。最後に、自分に合った楽しみ方でスポーツをする、そんな「#ネオスポーツ系」にあてはまる方々に、一言メッセージをお願いします。
競技場を飛び出して、町中でスポーツができたらいいなと常に思っています。もうこれからの時代、スポーツをするのに場所はいとわない。部屋の中でもビルの中でもいいんです。みんなで一緒に、日常にわくわくを作っていきましょう。